書評・レビュー「本当にわかる株式相場」ファンダメンタル分析で株取引の上級者へ

2017年2月24日

「本当にわかる株式相場」という本を読み、大変勉強になりました。以下にレビューを書いてみます。

本当にわかる株式相場

土屋 敦子
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ファンダメンタル分析で株取引の上級者へ

本書の著者は土屋敦子さんという方で、プロフィールを見るだけでも、ものすごい方です。いままで累計で稼いだ額はいったい何億円なのでしょうか。

慶応義塾大学法学部卒業。クラインオート・ベンソン証券、ガートモア・アセット・マネジメント、スパークス・アセット・マネジメントでアナリストを務めた後、2004年にシタデル・インベストメント・グループ・アジアに移籍。ポートフォリオ・マネージャーとして日本株イベント・ドリブン戦略ファンドを担当、数千億円を運用する。その後、メリルリンチ日本証券およびメリルリンチ・アジア・パシフィックのマネージング・ディレクター、日本株投資責任者を経て、2008年にアトム・キャピタル・マネジメント株式会社を設立。『AsianInvestor』誌の2009年インベストメント・パフォーマンス・アウォードのヘッジファンド部門で「ベスト・オルタナティブ・マネージャー賞(日本)」を受賞。

そんな方が書いた「株価はいつ、どうして動くのか?」に答える書です。株式市場に仕組み、どのようなプレイヤーどのような戦略で株を売買するか、など市場参加者の内幕を説明しています。

文章からも著者の頭の良さが非常に良くわかります。各説明がとても明確で論理的なのです。1度しっかり読むだけで、株式市場のおおよそが分かるような気がします。

ただし、本書で説明されている内容はかなり高度です。いわゆる株の入門書の内容はすべて理解しており、実際に株の取引をしている人でないとこの本の内容を理解するのは難しいでしょう。いわば株取引で上級者を目指す中級者のための本のような感じです。

本書では、チャート分析などのいわゆるテクニカル分析の話は一切と言っていいほど出てきません。すべてが「ファンダメンタル」な内容です。テクニカル分析を期待してこの本を買わないほうが良いでしょう。

また、いわゆる「デイトレード」しかしない方にも本書は不要かもしれません。PBRやEPSなどのファンダメンタル指標があまりアテにならないのがデイトレードです。有名な方の言葉にもこのような言葉がありますね。

B・N・F氏「株価収益率 (PER) や株価純資産倍率 (PBR) についてはまったく見ないです。 長期保有だったら意味があるかも知れないが、短期の売買では下がるときは下がるし、上がるときは上がる。 業績のいい企業の株でも下がったら負け。 気にしてもしょうがない。 株価に織り込まれている。」

cis氏「一つ言える事は上がる株を上がる時買う、これが全て。将来上がるから今は冴えないけどホールドするのはアホの骨頂です」

あくまでこの本は「長期投資をする」であったり、「株式市場の仕組み」を知りたい人が読むべき本だと思います。

以下では、この本を読んで私が「勉強になった」と感じる点を中心に、この本についてざっくり述べています。

プロローグ 私が株を買うときに考えていること

この章では、筆者が株を買うときの基準や思考ポイントを述べています。例えば、「業績が拡大すると思うから」では不充分と述べています。

具体的に3つのポイントとして、こちらを書いています。

  1. いまの株価は安いか?
  2. その株価はいくらであるべきか?
  3. 値動きの癖を理解する

例えば、ある会社の理論株価がいまの倍であったとしても、株価が実際に上がる確率が20%しかなければ、投資には一考の余地があるでしょう。他にも、投資には時間軸を考える必要があります。株価が上がるのが1年後だとしたら、時間軸に合わないかもしれません。

また、「市場のコンセンサス」にも考慮が必要です。ある会社の業績が20%の増益予想をしているが、自分は「30%増益だ」と思っていても、アナリストの総意として「40%増益」を見込んでいたらどうでしょうか。

第1章 株式市場とはどういうところか

第1章では、「株式市場」について書いています。

株式市場は、金融市場の一部です。金融市場のなかで株式というものがどのような立ち位置にいるのか、詳しく解説しています。

2つの金融市場

金融市場は2つに分かれています。短期金融市場と長期金融市場です。

短期金融市場

こちらでは1年未満の取引が行われています。代表的なものがコール市場 = インターバンク市場です。

銀行はいつも充分な現金を用意しているわけではないので、足りなくなった現金をコール市場で取ってきたりし、翌日には返済したりします。

また、コマーシャル・ペーパーなどがやり取りされる市場もあります。こちらは銀行以外も参入できるためオープン市場などと呼ばれています。

長期金融市場

そして1年以上のやり取りをするのが長期金融市場です。これは債券市場と株式市場に分かれています。債権には償還が必要ですが、株式にはそれはありません。ですので債権は他人資本ですが、株式は自己資本となります。

発行市場と流通市場

債権と株式には、「発行」と「流通」の2つの機能がなければいけません。株式や債券を発行しても、投資家が「いつでも現金化できる場」として流通市場が必要です。

ダークプール

ダークプールとは、証券会社が大口投資家向けに提供しているサービスで、証券会社のシステム内において売買注文を成立させる方法です。これにより取引所を通さずに売買ができます。これにより、次のようなメリットがあります。

  1. 匿名性のある取引ができる
  2. 取引コストを安くできる
  3. 約定単価の改善が期待できる

ダークプールでの取引は取引所を通さないので高い匿名性があります。「大きな数量の買い注文が出た」などの情報が流れません。この情報により株価が動くこともありませんね。

また、ダークプールでは株価が0.1円刻みで売買可能ですので、約定単価が安くなることが期待できます。

第2章 株価が決まるしくみ

この章では比較的、株式取引を実際に行っている人であれば言っている情報が多い章です。

株の注文の仕方、価格優先と時間優先の原則、取引単位、板寄せとザラ場、板などです。

章の後半では信用取引が株価に与える影響について書かれています。信用取引の各種指標を見ることで、取引の参考になります。制度信用取引では、半年以内に決済の必要がありますから。

例えば信用倍率、高値をつけた日からの日数(あるいはその逆)、回転日数、信用評価損益率などです。

具体例として、例えばある銘柄の回転日数が13日だったとします。このときに株価が13日移動平均線(つまり、ここ13日間の投資家が売買した平均コスト)より10%高い位置にあったとします。過去13日に空売りを仕掛けた投資家は含み損を抱えていますので、もう少し株価が上昇すると空売りの買い戻しが始まり株価が大幅上昇するかもしれません。

第3章 「企業価値としての株価」が決まるしくみ

この本で一番長い章です。株価というものは、現実問題としてこの4点で動いています。

  1. 需給バランス
  2. 企業価値
  3. 経済事象
  4. 海外要因

株価は直接的には需給で決まりますが、需給そのものに影響を与えているのが企業価値です。

株式相場で利益を上げるには、実際の株価と企業価値との間に乖離がある銘柄に投資をすることが大切です。企業価値算出には様々な方法がありますが、例えばDCF法などがあります。

株価は森羅万象全てを反映して動きますが、この章ではこの中でも最も投資家の行動に影響を与える企業価値について書いています。

BSとCFの株式投資的な見方

貸借対照表を見る上でチェックすべきポイントの一つは、ネットキャッシュかネットデットか?です。

資産の部にある「現金及び預金」「有価証券」から、有利子負債(短期借入金、コマーシャルペーパー、社債、長期借入金)を差し引き、プラスであればネットキャッシュです。

ネットキャッシュであったとき、それが時価総額から見て何割程度かを計算し、割合が高ければ株価は割安といえます。

フリーキャッシュフロー利回り

営業キャッシュフローと投資キャッシュフローを足し合わせた「フリーキャッシュフロー」(企業が事業を営みながら生み出したお金)が大きくなるほど、経営状態は良好といえます。

また、時価総額÷フリーキャッシュフローを「フリーキャッシュフロー利回り」といい、海外投資家が重要な参考指標としています。買収した場合、何年で投資回収ができるかを表しているからです。

いちばん有名な指標「PERとPBR」と株価

PBRは値下がりリスクをチェックするために使います。PBRが1倍を割ると割安となり、ダウンサイドリスクが低いと考えられます。

とはいえ、PBR = ROE × PER で表され、「PBRが低い銘柄」というのはROEが低い可能性があります。

ROEは海外投資家が重要視する指標です。JPX日経400で高ROEが採用基準となったため、日本市場でも再び脚光を浴びてきました。ちなみに米国は平均15%ですが、東証1部の平均では8%弱です。

一般的に言われるように、PERやROEはケースバイケースで、ただ数値が良いからと言って一概に良いとはいえません。

第4章 「経済ファクターとしての株価」が動くしくみ

経済指標が株価を動かすことがあり、特に景気の動きに先行する指標は大切です。

内閣府が公表している「景気動向指数」のうち、景気に先行する「先行系列」に属する経済指標をウォッチすると、景気の動きに先んじて今後の景気が拡大するのかが見えやすくなります。

金利と株価

教科書には、「金利の上昇は株価の下落」とあります。金利が上がると国債を買って利回りを得ようとするため資金は株式から債権に移動します。預金金利も上昇するので貯蓄傾向が高まり、住宅ローンなど高額消費のコストが上昇するので消費が控えられます。すると経済活動は低迷し株価も下がるはずです。

しかし現実には、金利と株価は相関した動きを見せています。何故でしょうか。

それは、金利を引き上げるということはその時点において景気が強いからにほかならないからです。金利の上げ始めは慣性の法則が働くように株価は上昇しますが、ある程度金利が上がると実体経済にネガティブな影響を及ぼし始めます。

金利と為替

金利と為替は影響し合います。金利が上昇している国があったら、その国の国債が買われます。この国の国債を買うためにはこの国の通貨である必要があるため、通貨も買われます。すると物価が下がりデフレになります。これを脱却するために金利を下げ通貨の価値を下げ、早く物を買わないと買えなくなるかもと消費を促し、景気を刺激するというサイクルが描かれます。

第5章「相場としての株価」が動くしくみ

相場では様々な要因で株価が動きます。この章で述べられているのは期待、テーマ、バブル(バリュエーションを無視した価格形成)、流行、ETF、アノマリーです。

ETFでは特にインバース型ETFについて述べられています。説明が難解で、私は理解できませんでした。

ETFは対象指数の価格に連動するように作られています。

例えば、日経平均株価と連動するETFは、対象指数と連動する連動株のバスケットに投資しています。これがレバレッジやインバース型になると、投資対象が先物に変わります。そして対象指数の価格が動けば、対象指数との連動を維持するために投資資産の調整が行われます。ダブルインバース型ETFの取引価格は、対象指数の前日の終値に対して逆方向に2倍の連動率を維持する仕組みになっています。ここではETFの対象指数が日経平均株価として説明します。

日経平均ダブルインバースETFは日経平均株価との連動率を維持するため、ETFの運用会社は日経平均先物を、ファンドの純資産に対して倍額を売り建てています。例えばETFの純資産総額が400億円なら、800億円分相当の日経平均先物を売り建てるのです。先物は現物株とは違って、証拠金を預けることによってその証拠金の何倍もの金額の先物を買ったり売ったりすることができるため、このようなことが可能になります。

たとえばある日のETFの純資産総額が400億円の場合、ダブルインバースETFが売り建てている先物の総額は800億円分となります。翌営業日に先物価格が上昇し(先物と日経平均の上昇率が同じと想定)、800億円分の先物の売り建て総額が850億円になります。先物の売り建て総額が50億円増えたと言う事は、先物で50億円の損失となり、ETFの純資産は50億円分減ったことになります。

この場合、ETFの純資産総額の400億円が350億円になったため、先物売り建て総額は2倍の700億円にならないといけません。しかし先物の売り建て総額が850億になってしまったため、当日中に150億円分の先物を買い戻しする必要があります。その逆に、先物価格が下落して800億円分の売り建て総額が750億円になったとします。先物価格が下落したことにより、50億円分の利益を上げたことになり、ETFの純資産総額は50億円分増えたことになります。そのため400億円の純資産額が450億円となり、その分の2倍の金額の900億円相当の先物売り建てをする必要があり、750億円の売り建て総額に150億円分の追加先物売り建てをする必要があります。

このオペレーションが株式市場に及ぼす影響が問題になっています。大引け間際に当日の損益分を、先物のポジションで調整する結果、相場が上がっても下がっても大引け間際にかけてダブルインバース型ETFの先物売り・買いが出てきてマーケット全体に影響を及ぼすのです。

第6章 株価を動かしている人たちの内幕

この章では資金を動かしている「プレイヤー」について述べられています。

「株式市場は自分とは無縁」と思っている人にとっても、実は無縁な場所ではありません。実際に株式に投資をしていなくても、例えば生命保険に入っていたり、年金を積み立てていたり、銀行に預金したりしていれば、間接的に株式市場に参加しています。最終受益者として参加しているのです。

この章で上げられているプレーヤーは、個人投資家、生命保険会社、投資信託会社、年金、日本銀行、銀行、外国人投資家、その他、です。

特に参考になったのが外国人投資家の項目です。外国人投資家は東証1部で65%の売買シェアを持っているとされ、大きな影響をもたらします。

外国人投資家のうち、7割が欧州で、アメリカ・アジアはそれぞれ15%程度です。

欧州の投資家は主にSWFと思われ、いわゆる「外国人買い」に貢献しています。他にもヘッジファンド、年金、CTA、投資信託などがあります。

ヘッジファンド

ヘッジファンドは、株式・債権・デリバティブ・コモディティなど、収益を生み出すものにはなんでも投資します。自由度の高いオフショアファンド(タックスヘイブンに設立されるファンド)です。1口の投資額は最低1億円以上になっています。リーマンショック前はレバレッジを10倍もきかせたりしていましたが、最近は1.5〜2倍程度になっています。

SWF

Sovereign Wealth Fundつまり政府系ファンドです。政府が国の資産を増やすことを目的としている投資活動です。例えばこのようなものがあります。

中東のSWFはオイルマネーを資金にしています。原油価格によって投資活動が影響を受けるので、2015年の原油安で中東のSWFが資金の一部を引き上げたのは記憶に新しいところです。

  • アブダビ投資庁
  • ノルウェー政府年金基金
  • サウジアラビア通貨庁
  • クウェート投資庁
  • 中国国家外国為替管理局
  • シンガポール政府投資公社
  • ロシア連邦安定基金
  • カタール投資庁

年金

有名所ではカリフォルニアのCalPERS(カリフォルニア州職員退職年金基金)、カナダのCPPIB(カナダ年金制度投資委員会)、前述のノルウェー政府年金基金です。20〜100庁円程度の運用資金があります。主にインデックス投資を行っています。

CTA

Commodity Trading Advisorはかつては商品先物を取引していましたが、近年では株価指数などの先物全般を扱っています。特にHFTなどの高頻度取引を行っているようです。

証券会社

証券会社は投資家からの売買注文を受付、市場につなぐ「委託売買(ブローカー)」業務を行っていますが、自らの資金を使うこともあります。これは「自己売買(ディーラー)」業務と言います。

しかし、CTAの用いるHFTの台頭もあり、自己売買部門の拡充を図っている証券会社は少数です。プレゼンスは低下しています。

仕手筋

かつては仕手筋というものもいました。近年はツイッターなどを通じて株を周知させ売り抜けを狙っています。

しかし保有比率が5%を超えると大量保有報告書が必要です。これには資金源も明示しなければなりませんし、1%以上変動したら変更報告も必要です。仕手筋の活動が大きく制限させられるようになり、存在が大きく後退していきました。

第7章自分の投資スタイルを確立しよう

ファンドマネージャーは企業訪問を重視しています。特に会社の雰囲気です。

証券会社のアナリストが書くレポートは、売買手数料を稼ぐための商品ですので、売買手数料が稼げる大型株が中心です。ほとんどの銘柄はレポートがありませんので、機関投資家も自分自身で調査しています。

筆者が実際に投資を行うには、候補銘柄について企業価値を算出し、それに達するためのカタリスト(きっかけ)を考えます。また、相場が逆行するダウンサイドリスクについても考慮します。

ネットショートとネットロング

運用資金のうち、どれだけの資金を運用しているかをグロス、差し引きでロングになっているかショートになっているかをネットロング・ネットショートと考えます。

例えば、運用資金100%のうちロングが50%、ショートが20%なら、グロスが70%、差し引き30%のネットロングです。

ロングしか狙わないファンドを「ロングオンリーファンド」と呼びます。このようなファンドはたとえ株価が暴落しても「いまの株価はこの会社の企業価値から見て下げすぎている」という判断が抜けず、ロングポジションを解消しないので損失を出してしまいます。

ネットロングにするかネットショートにするかはマクロ経済分析で決めます。適切に経済指標などをチェックしていれば、暴落時にもネットショートにしておくことで利益を出すことが可能です。実際、ヘッジファンドなどでは下げ局面でも信用売りや先物・オプションでのヘッジを効かせ、相場環境に影響を受けないようにしています。上げ下げを繰り返す日本市場には適した戦略です。

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